老舗工場の職人がつくる国産の鉛筆
みなさんは最後に鉛筆を使ったのはいつでしょうか。
美術系の学校や専門職のお仕事で使用しない限り、日常生活で鉛筆を使う機会も少なくなりました。
ここは東京都葛飾区の四ツ木。
古くから文房具づくりの工場があつまる下町です。
葛飾区周辺には、とても高い水準の技術を持った町工場が数多く存在しています。しかしながら最近の市場では海外製品が多数を占め、その技術力を活かす場も年々減り続けています。
そんな下町の工場の職人さんたちと協業し、こだわりの日本製文具を開発することにしました。
私たちが鉛筆づくりを依頼したのは、文具メーカー「北星鉛筆」さんです。
会社の登記は昭和26年ですが、鉛筆の製造を開始したのはなんと明治42年。100年以上つづく老舗メーカーさんです。
オリジナルの商品で日本文具大賞の部門賞を受賞したり、数々のメーカーさんとコラボ商品を開発したりと、老舗でありながらも新しい視点で精力的な活動をおこなっています。
今回つくったのはクリエイターやイラストレーター向けの「craftsman pencil」という12種類の鉛筆です。まさに「職人技」と呼ぶべき驚きの技術の数々をご紹介したいと思います。
まずは鉛筆づくりの最初の工程です。
ふだん使うときはスティック状の鉛筆ですが、製造の最初は「スラット」と呼ばれる木の板を2枚貼り合わせるところから始まります。
今回使用しているのは「香り」を意味するインセンスシダーという木材です。
加工のしやすさや耐久性、また木目の美しさなどを含め鉛筆に最適な木材といっても過言ではありません。
昔ながらの国産鉛筆にはインセンスシダーが使用されることも多く、この鉛筆の匂いをかぐと懐かしい気持ちになる方も多いのではないでしょうか。
このスラットに溝を彫り、鉛筆芯をセットして貼り合わせます。
craftsman pencilで使用している鉛筆芯は日本で唯一、国産の鉛筆芯を使用しているメーカーさんのものです。
国産芯の最大の特徴はなんといってもその描き味です。
一般的な海外芯のものと比べて「芯がやわらかい」という特徴があります。紙に黒鉛が乗りやすいため、デッサンやイラストレーションなどの描画作業に最適です。
海外からも最高級の鉛筆をつくるときは、わざわざこの日本製の鉛筆芯を取り寄せていることから、その品質の高さがうかがえます。
次は「プレス」という工程に入ります。
この作業には非常にデリケートで高度な技術を要します。
貼り合わせが強すぎても木がたわんでしまったり、弱すぎても中の芯が抜けてしまったりと力加減が難しく、最適なプレスをできるようになるまでには豊富な経験が必要です。
ようやく鉛筆の成形作業が行われ、見慣れた鉛筆の形状に整えられます。
この作業では当然たくさんの木くずが生まれてしまうのですが
北星鉛筆さんでは、鉛筆を成形する際に出る端材の再利用を積極的に進めています。
こちらの「着火薪」は、鉛筆の木材にロウが含まれていることに着目し、火がつきやすく煙の少ない着火剤として、端材を生まれ変わらせたものです。
Standard Productsでもこちらの着火薪を販売しています。キャンプ用品として非常に便利なアイテムですので、ぜひ店頭でご確認ください。
そして鉛筆外面の塗装に移ります。
インクを一度塗って終わりかと思いきや、北星鉛筆さんはなんと「6回」も下地を塗り重ねます。
塗装が1〜2回でもほぼ鉛筆の木目は消えるのですが、万が一にも地色が透けないよう検証し続けた結果、6回という結論にいたったそうです。
少しぐらい木目が見えていても、という気持ちになりそうなものですが、製品に一切妥協しない姿勢に老舗メーカーたるゆえんを感じます。
craftsman pencil 12setでは、6B〜4Hまでの鉛筆の外面塗装を、それぞれの芯に合わせた12段階の濃淡で制作していただきました。
色合わせに相当苦心されたそうで、その甲斐があって並べたときにとても美しいグラデーションとなりました。
6回も塗り重ねているのにこの微妙な色調整は、まさに職人技です。
そして塗装が済んだ後、デザインの仕上げとして「箔押し」を経て完成です。
また、完成にいたるまでには芯の硬さや書き味の検査、厚み測定や溝加工の精度、曲がり検査、偏芯検査など、工程ごとにありとあらゆる検査があります。
万が一にも欠陥品が出ないよう、高い品質を守るための徹底した検査が重ねられています。
実際に出来上がったものを一般的な鉛筆と比べてみると、その描き心地の良さに驚かされます。
特にデッサンやイラストを描かれる職業の方には、一度描き心地の差をお試しいただきたい一品です。
店頭では12本セットをはじめ、6B〜Fまでの商品を1本ずつ販売していますので、ぜひお手にとってご覧くださいませ。