
若手の職人たちがつくる笠間焼の手づくり食器
茨城県笠間市。江戸時代中期から続く窯業の産地として知られ、いまもなお多くの窯元が火を守り、日々の暮らしに寄り添う器をつくり続けています。長い歴史の上に磨かれてきた確かな品質と、手しごとの技術力が広く認められ、1992年には国の伝統的工芸品に指定されました。

今回私たちが販売する笠間焼の食器は、すべての工程が手作業です。ろくろを据え、たたらを踏み、土の声を確かめながら、熟練の職人さんがひとつずつ形を立ち上げていきます。乾いては待ち、窯を焚いてはまた待つ──そんな手間ひまの積み重ねが、口当たりのやさしさや、釉の揺らぎといった細やかな表情を生み出します。かつては手づくりで一日に千個以上を仕上げる職人さんが何人もいて、その技術と力量が産地の名を支えてきました。

ところが全盛期に比べて、現在は大口の注文が減り、「同じものを手づくりで、くり返し、数多く仕上げる」という大切な技術を実地で学ぶ機会が少なくなっています。今回販売する製品は 1個1,100円(税込)。本来なら数千円以上はする笠間焼を、この価格で提供する理由がそこにあります。若手の職人さんが量をこなしながら精度と速さを鍛える──その技術向上を目的とした限定的な生産だからこそ、今回の販売が実現しました。
産地にとっても、つくり手にとっても、そして手に取ってくださる方にとっても良い循環になるように。それぞれが気持ちよく「win-win」になれる開発を目指しました。

現地を訪ねておどろいたのが、若手・ベテランといった年齢差だけでなく、性別はおろか国籍まで異なるさまざまな職人さんが肩を並べて働いていたことです。「笠間焼の特徴は特徴がないこと」といわれています。長い歴史を持ちながらもしきたりに縛られず、職人さんそれぞれの個性を尊重してきた土地柄が、器の幅広さにそのままあらわれています。日々の食卓を穏やかに彩る美しい飯碗から、現代的なオブジェまで、幅広い作品が揃っています。決まった型に収まらない自由さこそが、笠間焼らしさであると感じます。

とはいえ、手作業の世界で生計を立てることは決して容易ではありません。ある職人さんはこう語ります。 「焼きものを問題なくつくれるようになってやっと半人前。暮らしが成り立つほどに商品を売ってこそ一人前なのです。」 腕前は確かでありながら、先輩の背中から学ぶことはまだ尽きません。量をこなすことでしか身につかない感覚や、工程ごとの勘どころ──。それらを身体に刻み込むための経験こそが、今回の取り組みの意義なのです。

笠間焼の食器は、たくさんの工程を経てみなさまの手元に届きます。原土を採り、粘土を整え、菊もみで土を締め、成形へ。素地に加飾を施し、じっくり乾燥させ、素焼きで骨格を固めます。そして釉薬を掛け、本焼きで景色を定め、窯出しののちに仕上げと検査を重ねて、ようやく完成にいたります。どの工程も省けるものはひとつもなく、手をかけた分だけ、器はしっとりとした存在感を帯びていきます。


こちらはろくろを使った成型の様子。自身の目で確かめ、手作業で測りながら、同じサイズの茶碗が次々と仕上がっていく様子は、まさに職人技です。ろくろで作られた茶碗は、余分な厚みを持たせず土を伸ばし、無駄な部分をカンナで削るため一般的な成型に比べて軽量になりやすい傾向があります。実際に手に取っていただけるとその軽さを実感いただけることかと思います。



成型された茶碗は数日間かけて乾燥させ、釉薬を掛けてまた乾燥させます。器の種類や季節にもよりますが、長いものでは数週間以上乾燥させることがあります。中の水分が抜けきらないと器が割れたり、反りやヒビの原因となるため、時間はかかりますが安定した商品づくりに必要不可欠な工程です。


そしていよいよ焼成、仕上げを経て完成です。焼成の方法は電気、ガス、薪などがありますが、こちらの窯元さんではガスで焼き上げます。薪よりも商品の仕上がりの安定性と風合いがよいため、ガス焼成を選んでいるとのことです。


今回のシリーズは、釉薬違いで5色の茶碗と小皿、全10商品ををご用意しました。同じ製造方法でも手づくりのため、一つひとつ表情が違います。土のぬくもりと、つくり手の息づかいが感じられる笠間焼の食器。生産量に限りがございますので、ぜひ店頭で現物をご覧ください。

