「日本で一番大切にしたい会社」がつくるお絵かき道具
こちらは神奈川県川崎市にある日本理化学工業さん。メインとなる製造品は黒板用チョークの生産です。国内シェアのおよそ7割を占め、生産量は日本一を誇ります。
80年以上前に開発されたロングセラー商品「ダストレスチョーク」は、筆記時に粉の飛散が少なく、体に害のない商品として全国的な人気を博しています。
主原料の一部をホタテの貝殻にするなど、環境問題への積極的な取り組みから国内外を問わず数々の賞を受賞しています。
昭和初期の頃から、学校や企業向けにチョークを販売し続けてきた老舗の優良企業ですが、日本理化学工業さんのもっとも特筆すべきポイントはそこではありません。
なんと90名いるスタッフのうち、約7割が軽度〜重度の「知的障がい」を持っているのです。
しかも知的障がいを持つ人だけで、商品の生産ラインがすべて滞りなく回っているというのですから驚きです。
日本理化学工業さんが最初に障がい者採用を行ったのは、昭和35年のことでした。
工場近くの養護学校の先生が、15歳の女学生2名を連れて採用の相談に来社したことがきっかけです。当初、先代社長の大山泰弘さんは「知的障がいを持つ子を雇う責任は重い」と丁重にお断りをしました。
しかしその先生は何度も会社を訪れ、「二週間だけでいい、この子たちに働く喜びを教えてあげてほしい。このままでは働く喜びを知らないまま一生親元を離れて施設で過ごすことになってしまう」と強く懇願をされます。
そこまでいうのなら、と現代でいうインターンシップのようなかたちで引き受けることとなりました。
知的障がいを持つ人は、読み書きや計算に難がある人が多く、その場合はできる仕事の内容も限られています。スタッフとのコミュニケーションもうまくとれず、健常者にとってはカンタンと思える内容もなかなか習得してもらうこともできないため、お互いに苦労の連続だったといいます。
泰弘さんは知的障がいを持つ子供を働かせることに、ある種の罪悪感を覚えていました。しかるべき施設で、苦労のない生活を過ごした方がよほど幸せなのではないか、と苦悩していたそうです。
しかし予想とは裏腹に、彼女たちは「働くことができる」ということに強いやりがいを覚えていました。人に必要とされ、褒められ、働くということに、これまでの人生になかった喜びを感じていたのです。
就業開始の一時間以上前には出社し、休憩時間でも声をかけられるまで休まず、一心不乱に日々の業務に努めていました。
そんな彼女たちのひたむきに働く姿に感銘を受けたみなさんは、期間限定の就業ではなく正式な採用を決めました。
それから毎年ひとり、またひとりと知的障がいをもつスタッフを雇い続けて今にいたります。
四代目である大山隆久社長は、決して社会福祉の視点で知的障がいをもつスタッフを雇用しているわけではないといいます。
日本理化学工業さんの商品づくりに彼らの持つ能力が必要で、欠かせない存在だからともに働いている、とのことです。
たとえばこれらの作業は一見すると単純にも思えますが、高度な技術と長い集中力を要する作業です。
スタッフのみなさんは中休み2回、昼休憩をのぞいて一日中同じ作業をくり返すことが多くあります。
それにもかかわらず一度作業を覚えるとほとんどミスをせず、人によっては同じ工程を何十年も続けられる驚異の集中力を発揮しています。
これこそが、知的障がいをもつ人たちにとって最大の特徴であるともいえます。
スタッフのみなさんにお仕事が大変かどうか尋ねてみても、誰もが口をそろえて「楽しい」と答え、強いやりがいを持って働いています。多くのスタッフさんが定年まで働くことを望み、圧倒的な離職率の低さも日本理化学工業さんならではといえます。
いまでこそ「健常者」と「知的障がい者」が一緒の職場で働ける状況ではありますが、ここにいたるまでの道のりは並大抵のことではありませんでした。
たとえば製造の材料を100グラム入れる、 3分経ったら機械を止める、不良品は廃棄する、という作業もそれぞれ習得ができる人とできない人がいます。
日本理化学工業さんはそこで諦めず、相手の持っている理解力を考慮し、なんども試行錯誤をくり返しながら、みんなで一緒に働ける理想的な職場を何十年もかけてつくり上げました。
こちらのほとんど文字が印字されていない赤と青の袋も、メーカーさんにお願いした別注品です。
この資材が生まれたのは、文字の読めないスタッフでも、通勤時に信号機の色は識別できていることに気づいたのがきっかけです。
つまり赤の袋を赤のバケツに入れる、という作業が問題なくできるのです。
そして赤色の分銅を用意すれば、釣り合う重さを量るという作業ができることにも気づきました。
こうした色による識別の方法は大成功で、その方法の応用でいまでは誰もが責任をもって作業ができる環境となりました。
不良品の検品においても、測定器(ノギス)を正しく使用できないスタッフであっても、こちらの器具を使えば太さや細さを見た目で測ることができます。
もしも不良品かどうか判断がつかない場合は「△」という場所を用意すれば、いずれは不良品の判断も覚えるようになります。
いわばユニバーサルデザインの走りとも呼べる道具の数々が、スタッフのみなさんの創意工夫で生まれ続けてきたわけです。
これらのかいもあって、いまでは生産ラインすべてが知的障がいを持つ人だけで運用できる工場となりました。
こうした取り組みは徐々に世間に知られていき、数々の表彰や取材だけでなく、70万部を超えるベストセラー「日本で一番大切にしたい会社(あさ出版)」に取り上げられるまでとなりました。
そして日本理化学工業さんが2005年に発売したのが、こちらの「キットパス」です。
キットパスは窓ガラスや鏡などの平滑な面であれば、拭き取れば消える不思議なお絵かき道具です。水に溶かせば水彩絵の具のように絵筆で楽しむこともできます。
主成分はお米から生まれた原料を使用しているため、手や顔についても安心して遊ぶことができます。
別シリーズのお風呂用のキットパスは、壁や浴槽に描いても水で拭けば消える仕様です。
本体が水に沈まない設計は、魚のように浮かばせて遊べるだけでなく、子供が溺れてしまわないよう安全面の配慮という観点でもあります。
こうした数々の配慮が行き届いたユニークなお絵かき道具は、世界的にも評価されています。ニューヨークの近代美術館(MoMA)やパリのルーブル美術館など名だたる美術館で展示販売されることになりました。
Standard Productsで販売するのは窓ガラス用とお風呂用の2種類です。
日本理化学工業さんの主力商品である業務用のチョークは、使用する学校や企業の減少にともない、年々市場規模は縮小傾向にあります。そこでいま販売に力を注いでいるのがこのキットパスです。
今回私たちは微力ながら、キットパスの販売だけでなく、日本理化学工業さんという会社を知ってもらうためのお手伝いをさせていただくことにしました。
商品のすばらしさもさることながら、「日本で一番大切にしたい会社」と称される日本理化学工業さん。
隆久社長は子供だけでなく、年齢性別を問わず誰もが楽しめる「楽がき文化」を広めるため精力的に活動されています。
ぜひこの機会にお子さまと一緒にお絵かきを楽しんでみてはいかがでしょうか。
池袋東武店先行発売
※3月以降順次全店にて発売